第2章 予行/魘夢/手駒人間夢主/日常/※微グロ
「遠慮も躊躇もいらないよ。幸せな夢の為……」
「う、わあああぁぁぁああーーーー!!!」
ぐずりと勢いに任せて、深く、奥まで一気に。人の目とはこんなにも柔らかい事を初めて知った。
握り締めた拳が頭蓋骨に当たるまで、手がぐにゃりと眼球に触れる感触が伝わるまで。溢れる血は想像したよりも冷んやりしていて、さらさらさらさら、落ちてゆく。じんわりこちらを汚してゆくようで思わず血塗れの手を引っ込めた。
「っ、……はぁはぁっ、はあ」
「うん。よく出来ましたぁ」
ぱちぱちと拍手の音をたてながら、あの人の声色は揚々と明るかった。めりめり気持ちの悪い音を出す目元から自ら錐を抜くと、真っ赤なそれを自身の服の裾で丁寧に拭いた上で、持ち手側をこちらに差し出してくれる。
穴の空いた眼球の真ん中が空洞みたいに赤黒い。まるで赤い涙を流すようたらたらと 血が少しずつ溢れている。見たくもないが脳味噌まで飛び出して来るんじゃないかと想像し、直視出来ずに下を向いた。自身の顎先からたらりと冷や汗が落ちる。それが膝の上に乗る錐に落ちてゆく。
「何か質問はある?」
「い、いいえ……」
「飲み込みの早いコだ」
「……………………」
立ち上がる気配を受けて視線を上げた。びきびき歪な音をたてながら、ぐちゃぐちゃになった目元は元の綺麗な色に戻りつつある。ただ、頬も服も額にまで、ついた血液は生々しいままだ。
「幸せな夢を見る為に、頑張ってね」
そう言われて、再び錐を握り締めるしかなかった。
眠りたかったしどうせなら幸せな夢を見たかった。けれどこの選択が正しかったのかはわからない。
唯一わかるのは、“逃げる術”はもうないという点だ。
終