第4章 合同任務/魘夢(眠柱if)/鬼殺隊夢主/日常
こちらに目もくれず鬼の頭にのみ視線を注ぐ眠柱の横顔は、何か愛おしいものでも見つめるような熱を帯びている。それはちょうど先程に、最初の鬼に触れていた時と似た眼差しだった。
鬼殺隊でありながら鬼に対し、こうもうっとりした瞳をする隊士をはかつて見た事がない。思わずゴクリと息を飲んだ。
鬼の頭が完全に崩壊する。ようやく眠柱は刀を鞘にしまい、の方に顔を向けた。山の麓からは少しだけ明かりが差していた。
「お終いだね。鬼退治」
「……あ、はい……」
「怪我はない?無事に終わって良かった」
「……………………」
結果だけ見れば、眠柱の言う通りだ。両者に怪我はなく民間人への被害もなかった。任務は順調に完了したと言える。
それでも、には拭えない“不信感”がごうごうと渦を巻いたままだ。
「あの、眠柱様…………」
「なにかな」
「先程、あの鬼と、……取り引きをする、と……」
「うん。言った言った」
眠柱はからりと明るく微笑むばかりだ。
「取り引きをするとは言ったけど、“守る”とは一言も言ってないし」
「え、……」
「約束通り、俺はちゃんを一旦は鬼に引き渡したでしょう?」
「…………」
「そもそも鬼に、義理を立てる必要なんてないからね」
「……そう、です、けど……」
本当にその通り、眠柱の言う通りだ。
結論鬼を滅殺出来たのだからやり方はなんだって良いはず。後味の悪さをが感じる必要は微塵もない。
ないはずなのに。何なのか、ただならぬ違和感が拭えなかった。眠柱は空を仰ぎ、ごく静かな声を出す。
「鬼は皆……“人間だった頃”から、滑稽で可哀想で 苦しみと憎悪でいっぱいで…………」
「…………」
「うふふ、うふふふっ」
「…………」
「彼の記憶……すごく……すごく美味しかったァ……!」
「っ」
急に頬を高揚させ声を昂らせる様は、見るも不気味なだけだった。
これでは独りよがりの自己陶酔と同じだ。違和感の正体が、今はっきりとわかった気がした。
“罪なき人を守るため、鬼舞辻無惨を倒しこの世から悪い鬼を殲滅するため。”
鬼殺隊が刀をふるう理由はそれだ。しかしこの剣士はそもそもの前提が違う、鬼を切る大義名分が他の剣士とは違うのだ。