第3章 夢見事/魘夢/魘夢にベタ惚れ鬼夢主/微甘/※グロ
先程からずっと、錯乱するほど頭がぼうっとする。この血の香りが必然的にそうさせる。
は自らの手につく血を、べろりと大きく舐めた。たった一口で染み渡る。甘く芳醇な稀血をまとう今の身は、今の自分こそが、「最高の土産」になり得るではないか。
「……っ……」
もっともっとと、止まらなくなる。
濃密な毒に犯されるようただ夢中になり、服の袖を口に含んだ。染み込んだ血を吸い出すようにくちゅくちゅ何度も噛み締めた。
ふと、触れてくるのは先程の左手だった。
そっと頬を取られれば自然と顔が上に向き、綺麗に歪む瞳が近くなる。一気に影を濃くする距離にまで詰められると、愛憎と興奮が混ざり狂ってしまう。
「幸せそうだね」
「……、い 一緒に……」
「食べちゃったくせに。自分1人で」
思い切り蔑むような、それをもどこか愉しむように。
2人きりで、はっきりと見つめ合った。
今この瞬間、彼を独り占めしているのは間違いなくだ。
真っ直ぐ伸びる鼻筋が、ほんのり覗く白い牙が。
額を隠す髪が、陶酔するような表情が。
大好きでおかしくなりそうだ。
血管の浮く血塗られた自身の両手が、勝手に動いた。
堪らなく触れたくて、躊躇なく、彼の頬にべたりと赤い染みを残した。青白い肌に乗る錆びた赤が黒く映る。
ゆっくりと、華奢な輪郭を辿いでもへし折れそうな細やかな首へ。今確かに焦がれた人に触れている。その感覚を脳細胞の隅から隅へ、焼き付けるように刻み込む。
「そんなに、良かったんだ?」
そう言いながら惜しみなく、彼は血で汚された自身口元を指の腹でぬぐい 味見の如く舐めて見せる。
「……っ……」
手首を掴まれた。まるで口付けを落とすよう、掌に唇を押し付けられる。落とされた彼の頭からは、一筋だけ髪が流れた。
舌の動きは何か別の生き物みたいに器用で正確だった。ねっとりと執拗に 指の間や爪の中までも、の手につく稀血を丁寧に味わう様に目が離せなくなる。
「……独り占めはやっぱりずるいよねぇ」
「っ」
視界が反転した。