第3章 夢見事/魘夢/魘夢にベタ惚れ鬼夢主/微甘/※グロ
ぶつんと何かが切れるよう、の意識が一心にそこへ集中した。
は数歩で稀血の男に足を近づける。寄れば寄るほど香りは濃農とむせ返る。もはや無意識には大きく口を開けた。
「ぐっ、あああぁああああぁぁああああああぁぁ」
「あーあ……彼の夢はこれからがいい所なのに……」
肉を剥ぎ取る、音。
飛び散る血の、飛沫。
微かな理性の中で、魘夢の軽蔑を含む冷めた声を聞いた。染み渡る特上の血を前にしてはもう止められる気がしなかった。この状況で、食事を拒絶することは出来ない。
はもう一度、顎関節が音出すほど口を開けた。
◆
あれから一刻も経たぬうちに、は元の列車に戻った。高速移動をする車輪に負けぬ速さで最前列の客席車両に降り立った。魘夢がいる窓は前から2番目だ。もはや待ちきれなくて、脚で思い切り窓を蹴破った。
「おかえり」
飛び散る硝子を物ともせずに、座席に深く腰掛け足を組んでいる彼がそう迎えてくれた。朗らかな表情も、綺麗に飾られる頬も髪も、この短い間に離れていた事が惜しくて堪らなくなる。
魘夢は下がり眉をますます下げて、思い切り呆れ返っている。それもそのはずだ、結局は手ぶらで帰ってきてしまったのだから。
「俺にお土産があるんじゃなかったの?」
「そのはず……だったんだけど……」
の身にあるのは、おびただしい量の返り血だけだった。
顔の半分はどろりとした血に汚れ、髪も服もぐずりと赤黒く汚れている。襟元から胸、下半身に至るまで血液だけにとどまらず散りぢりになった臓物らしきものも付着していた。
胸からぴょんと、勝手に飛び出す魘夢の左手は本来の位置まで戻っていく。元に収まる手を確認するかの如く、服の袖を捲り上げる仕草が、くるりと手首を回して見せる様が、新鮮で感動で 見惚れてしまう。
は静かに車内に入り、魘夢の隣に腰掛けた。真っ直ぐ彼に視線を投げれば、瞳だけできちんとこちらを見返してくれる。
いつ、いかなる時も。物腰は柔らかく自身の表情を崩さない。彼の些細な一挙手一投足にすら目眩を覚える愛を感じていると言うのに、本人はいつも素知らぬ顔で飄々と鬼らしく生きている。