Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
そんな兄の不安をカインは見逃さなかった。彼は足を止めると私たちを振り返って優しく頷いた。
「ああ……悪かった。賢者様は異界からやって来るんだよな。何も知らないのについて来いって言われても怖いよな」
彼は少し考え込んでから簡潔に事を話してくれた。
魔法使いと名乗る彼らの一番の頼みは、私たちに力を貸してほしいということだった。彼らはとある戦いで仲間を半分失い、今もまた、仲間を失う危機にあるという。
私たちにはそれを断る権利もあるし、断ったことで責められることもない。けれどそれでも、自分たちを信じて力を貸してほしいのだと。彼の言うことはよく分からない。
そもそも私たちは異界から来たと彼は口にした。ということはここは私たちのいた世界ではないということだろうか。その話が真実なのか嘘なのかも分からない。兄はカインたちへと視線を向けて言った。
「力を貸すって、何をすればいいんですか?」
「先生を……ファウスト先生を助けて欲しいんです」
「ファウ……スト…先生……?」
話によるとファウストというのはカインたちの仲間らしい。そして先程の話にあった戦いで仲間を庇い深手を負い、死にかけているのだと。
「お願いです……どうか先生を助けてください……」
「分かりました。俺たちに出来ることがあるなら」
兄がそう答えると泣きそうだったヒースクリフの表情に笑顔が見えた。その顔はとても純粋で、とても美しかった。
「ありがとうございます。賢者様……」
だがその時、ドラモンドと気弱そうな男性ーーークックロビンと言っただろうか、彼らが階段を駆け下りてくるのが見えた。そしてドラモンドは私たちに向かって大声で叫ぶ。
「賢者様!騙されてはいけません!魔法使いはいい加減で嘘つきです!躊躇いもなく人を騙すし、不思議な力で心を操ります!彼らを信じてはいけません!」
(なんて酷い言い方……)
私はチラリと魔法使いたちの方へ視線を向けた。