Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
体が冷える前には戻ろう。そうしなければきっと風邪を引いてしまうだろうから。
(それにしても、空気が澄んでいるのね)
住宅が密集しているような場所ではないからだろうか。朝方ということもあるだろうけれど、元いた世界よりも空気が綺麗に感じる。ゆっくりと呼吸をすれば体が楽になるような気もしてしまう。
「……ん?どこからか声が……」
ふと耳に届いたのは誰かの声だった。はっきりと何かを言っているわけではないようだったが、繰り返し聞こえてくるそれは、中庭の方からだった。そちらへ足を向けてみれば、私の視界に映ったのは剣を振るカインの姿だった。
(剣の稽古かな……こんなに朝早くから……)
そういえばカインは元騎士団長だとか言っていたはずだ。剣捌きは見事なもので、つい私はその動きに見入ってしまう。
「……くしゅっ」
「!」
不意にくしゃみをしてしまい、小さいながらもその音に気づいたカインがこちらを振り返った。そしてそこに居たのが私だと分かるとニカッと笑みを浮かべて手を振ってきた。
「……おはようございます。こんなに早くから訓練ですか?」
「騎士団にいた頃は朝の鍛錬は日課だったんだ。癖というわけじゃないが、何もせずにはいなれなくてな」
「流石ですね。お兄ちゃんなんか、朝のランニングを始めても1週間もしないでやめちゃいますよ」
「俺の場合はやらなければならないことだったからじゃないか?騎士団長が訓練をサボるわけにはいかないだろ?」
「それもそうですね……くしゅっ」
「寒いか?」
「いえ、大丈夫です。慣れない気候に体がついていかないだけで、少し過ごせば慣れますから」
「それなら良いが、あまり無理はしないでくれよ?スノウ様とホワイト様からも、賢者様と茜のことは丁重にと言われたからな」
そう言いながら傍の枝に掛けてあった自身の上着を私に掛けてくれるカイン。その行動があまりにも自然で、これはきっと女性にモテる人材だなと内心考えてしまった。
優しい好青年で、そしてこの顔だ。モテないわけがない。