Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
「あの、ネロさん」
「なんだ?」
「良かったらネロさんもどうぞ」
そう言って兄のカップを差し出す。彼は少しの間私の目を見つめていたが、やがてカップを受け取ると軽く微笑んで見せた。
「有難く貰っておくよ」
ネロは受け取ったカップを籠の脇に置くと、野菜を洗いに戻る。私はそんな背中を眺めながら椅子に腰かけ、ミルクをすすった。
(信用されていないってことかな……)
東の魔法使いたちがあまり友好的でないことは、昨日の彼らの様子を見て分かってはいた。しかも突然賢者の魔法使いに選ばれて、役目を果たすために集められただなんて、そりゃ初めて会う相手に警戒もするだろう。
少しばかり悲しくもあるが、仕方もないと腹を括っていた。
(彼みたいな人をどこかで見たことあるような気がするけど、どこでだったっけ……あぁそうだ、高校に入りたての時の、隣の席の子だ)
あまり通うことが出来なかったけれど、高校生活で同じような人にあったことがある。
あの時は女性で、しかも妙にプライドの高い人だったけれど、出会ったばかりの相手のことをあまり信用しておらず、それを隠すように繕っていたのだ。
(賢者のお兄ちゃんならまだしも、その妹なんて、彼らからしたら、完全に他人だものね)
ミルクを半分ほど飲みホッと息をつくと、またネロがこちらを振り返った。
「……」
「……?」
けれど何も言ってこないので、ひとまず部屋に戻ろうかと椅子から立ち上がった。するとネロは再び野菜洗いへと戻る。
(今の……何?)
彼からは妙な違和感を感じた。その違和感の正体がわかる訳もなく、私は厨房を後にする。
部屋まで戻ってくると、ベッドに腰かけて残りのミルクをすする。体が徐々に温まっていくのと同時に、また眠気が襲ってきた。
今眠ってしまったら昼間まで眠りこけてしまいそうだったので、せっかく体を温めたのに意味がなくなってしまうけれど、少し散歩に出ようかと身支度を整える。
外は先程よりも明るくなってきており、外に出ると朝の風が頬をくすぐる。
(上着を持ってきて正解だったみたい。まだ少し寒いもの)