Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
ふと目が覚めたのは、まだ日がのぼらない時間帯だった。
しんと静まり返った部屋が妙に落ち着かなくて、私の目はすっかり覚めてしまった。
(そういえば、この世界に来て2晩しか越してないのよね……最初の夜はあまりに疲れてて、シャイロックに賢者の魔法使いについて教えてもらったあとの記憶があまり無いし……)
慣れない環境では私は案外眠れない質なのかもしれない。そわそわする気持ちを抑えるべくベッドから起き上がると、すぐ脇の窓を開いて顔を覗かせてみた。
目の前に広がる中庭の向こう側には、おそらく国の中心部へと続くであろう道が見えた。まだ薄暗い空の下に所々灯りが見える。
私は窓枠に肘を付いてぼうっとその景色を眺める。朝方の涼しい風が頬を撫で、思わずくしゃみをしてから上着を羽織った。
(……共同生活、か……私にはあまり関係の無いことなんだろうけれど……)
賢者でなければ魔法使いでもない私にとっては、結束力だの何だのは大して関係の無いことである。それは兄のすべきことであり、断じて私ではない。だから私がそれに口を挟むべきではないし、どうこう出来るわけでもない。
(……ムルにはああ言ったけれど、世界を見てどうするのかを決めるのは、正しいことなのかな……)
本来在るべき運命を私が変えることで、この世界を均衡を崩してしまう可能性も否めない。仮にそうだとしてその未来に意味はあるのだろうか。
(駄目……考えれば考えるほど分からなくなっていく……)
ここに来てから考えることが多くて、妙に疲れてしまう。頭痛がしないからまだ良いが、こんな毎日が続くとなると流石につらい。
「……何か温かいものでも飲もうかな」
床についても恐らく眠れないだろう。それに早い人はもうすぐ起きてくる時間だから、このまま起きていても問題はない。
枕元のパープルサファイアを上着のポケットに入れて部屋を出る。薄暗い魔法舎の廊下はどこか寂しく見えた。