Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
『少し、勘違いをされているようですね』
ムルは私の欠片を握る手を取り、夜空を上昇し始めた。どこまでも続く空間に背筋がひやりとした。それに気づいたか否か、彼はふわりとその場に浮かぶと、一方を指さして尋ねた。
『例えばあなたが買い物帰りに二又の道へ差し掛かったとしましょう。しかしそこは本来あなたが通る道ではなかった。普段通る道は……巨大な犬が塞いでいたということにしましょうか』
(なんという適当な……)
『さて、右の道は何も無い一本道。あなたを止めるものはにもない。けれどその道は家へと続く道ではなく、真っ白な世界へ続く道。真っ白な世界はあなたの望む形へ変えられる。対して左の道はあなたにとって不幸をもたらす茨道。あなたは苦悩することになりますが、そこを通ればその先にはあなたの家といくつもの幸運が待っている。さぁ、あなたは一体どちらを選びますか?』
「……それは、選ばなければならないんですか?」
『絶対ではありません。ですが選ばなかった場合、鉢合わせた友人によって強制的にどちらかの道へ連れ込まれます』
「……」
私は考え込んでしまった。何も止めるものは無い道は歩みやすいが家へ帰るための道ではない。けれど私の望む形へ変えられる。茨の道は苦しみが待っているだろう。けれどそれさえ乗り越えれば幸運が待っている。
「私は……選びたくないです」
『それはどちらの道へ連れ込まれても構わないということですか?……それは随分と大胆なことだ』
「どちらを選ぶとしても、幸と不幸は背中合わせでしかないのでしょう?だったら私はその友人に運命を任せます」
『それならばこの世界でもそのようにすると良いのではないでしょうか』
「あの、この問いに何か意味があるんですか?」
『ああこれは失礼しました。あなたは運命が無いからかと私に尋ねましたが、それは事実です。本来ならばこちらの世界にくることのないあなたには、この世界において運命を持たない存在。ですからあなたの仰ることは間違いではないのです』