Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
「……」
こちらのムルが知らない何かを、欠片のムルはきっと知っている。それを聞き出すことはおそらく出来ないだろう。けれど何か知っているのなら、それに少しでも望みをかけたい。
(私はこの世界で何か役に立ちたいと思った。必要とされていないのなら、必要とされる何かになれるように。だからーーー)
欠片をぎゅっと握りしめて私は目を閉じた。あの夜空のような空間を思い浮かべ、それからムルを思い浮かべる。
欠片のムルへの干渉の仕方なんて分からない。前回も前々回も意識が無い時に自然と向こう側へ干渉していたのだから。それでも祈りを込めるようにして意識を向こう側へと向ける。
ふと、重力を感じにくくなった。
(……?)
そっと瞳を開いた先に夜の空間が見え、そして頬杖を付きながらこちらを覗き込むムルの姿を捉える。
「ムル……」
『怯えたウサギのような目をしていますね。けれどどこか強い光をしている。さて、私に聞きたいことは?』
「答えてくれるんですか?」
『あなたの求める答えがここにあれば幸運と思い、無ければ私は答えることが出来ないのですよ』
「また曖昧に答えるつもりなんですね」
怯えたウサギなんて、これでも不安を抑えているというのに、彼はなんて言い方をするのだろう。私にその意識がない分余計に複雑だ。
「あなたは以前私に言いましたよね?『自身が自分を必要と感じていないとしても、周りが案外そうでない場合もある。大事なのはこの世界でどうしたいか』って」
『ええ、確かに言いましたね』
「それは私に運命がないからですか?運命がなければ自分で運命を作れということですか?それとも運命に巻き込まれるのだから、それを自分で書き換えろとでもいうんですか?」