Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
(……大丈夫なのかな……)
時折スノウとホワイトの方を眺めていたが、彼らの心中があまり良いものではないことには気づいていた。
あちらこちらで疑念と苛立ちが絡み合っており、団結するには綻びが大きすぎるのだ。
「共同生活、あまり上手くいきそうにもないけど……」
中庭まで出てくると近くのベンチに腰をかける。見上げた夜空には相変わらず大きな月が浮かんでいた。手を伸ばせば届いてしまいそうで、今にもこの手に落ちてきそうで。
「〈大いなる厄災〉のためにお兄ちゃんはこの世界へ召喚された。それがお兄ちゃんの運命」
小さな声でそう呟いてから、私は懐に入れたムルの魂の欠片を取り出した。月にかざすようにして欠片を覗き込み、欠片のムルへ問いかけるように続ける。
「この世界に私の運命は無い。誰かの運命に巻き込まれているのなら、それは一体誰のものなの……?」
届かないと分かっていても不思議と口からはスラスラと言葉が溢れてくる。
「お兄ちゃんのものだったら、私にも何か存在意義が生まれている?アーサー王子のものだったら、オズと何か関わりがある?ヒースクリフのものだったら、シノに関わりが?南の魔法使いたちだったら?……それともあなたに干渉できるのだから、ムルの運命?……あれ、おかしいな……私、どうしてこんなことを言っているの?運命?私にはなくて、誰かに巻き込まれている?どうして?私……運命の話なんてしているの……?」
私自身がこの世界において必要とされていないことは知っている。けれど運命が無いからなんてことは誰からも言われていないし、私もそう思ったことは無い。それならば運命がないと言ったのはどこの誰なのか。
「……あなたが私にそう言ったというの?」
欠片のムル。向こう側に干渉すればきっと質問の答えは分かるはず。おそらく答えてはくれないだろうけれど。