Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
「おまえは?」
「東の魔法使いシノ。シャーウッドの森の番人。ブランシエット家の小間使いだ」
「ブランシエット家って、ヒースクリフの実家?」
「……シノは幼馴染です」
そう答えるヒースクリフはどこか複雑そうな表情をしていた。
「おまえ、ヒースクリフの友人か」
「友人じゃない」
ファウストを軽く睨んでシノがそう言った。思ってもいなかった言葉に私は目を丸くしてヒースクリフへと視線を移す。ヒースクリフのに青筋が浮かび、彼もまた苛立ったように返す。
「ああそう」
互いに目を合わすことなく二人は険悪な雰囲気になってしまった。
そんな彼らに他の国の魔法使いの誰もが声をかけられない中、ファウストは東の魔法使いの紹介を締めてしまう。
(なんだか……空気が重い……)
ピリピリとした空気に私は大きく息を吐いた。この場にいるのことが酷く苦しくて、頭が痛い。
人間関係のいざこざなど慣れているはずなのに、どうしてか心が苦しくて仕方ないのだ。彼らが私とは違う魔法使いだからなのか、それとも別の影響なのかは分からない。
(まだ体が本調子じゃないのかな……なんて、言い訳にしかならないよね……でも……)
南の魔法使いと北の魔法使いの自己紹介がどれだけほのぼのとしたものであっても、この苦しさは収まらないだろう。
(少し、夜風にあたってこよう)
南の魔法使いの自己紹介が始まる中で、私はそっと席を立ち、部屋を後にする。
兄に一声かけようか迷ったけれど、邪魔をしてはいけないかと思い、何も言わずに出てきてしまった。けれどあの様子では魔法使い同士で聞きたいことが山ほどあるだろう。そんなに長い間あの場にいる方がよっぽど辛い。