Fleeting promise【魔法使いの約束】
第3章 友達と呼ぶにはまだ遠い
じっと彼を見つめていると、その視線に気づいたのかムルは私の方を見て満面の笑みを浮かべた。慌てて視線を逸らしてから、私は何故そんなことをしたのか自分で自分に疑問を抱いてしまった。
(あれ……私、ムルさんに失礼なことしちゃった……?)
そろそろと視線を上げて再度ムルの方を見るが、彼はもうこちらを見ていなかった。
続けて新しく召喚されたラスティカとクロエが名乗る。クロエは国一番の仕立て屋になることを夢見ているという。
それを聞いたシャイロックが、ファウストの方を見て服を作って貰ったらどうかと口にした。けれどファウストは無言のままだ。
「次は東の魔法使いたちの紹介をしてください」
私は東の魔法使いたちの方へ視線を向ける。彼らは居心地悪そうに一番端の席に座っていた。東の魔法使いは人嫌いだと賢者の書に書かれていた通り、この自己紹介も乗り気ではないようで、ファウストは無言のまま目を伏せている。
長い沈黙に耐えられなくなったのか、兄が恐る恐る声を掛けると、彼は重い口をようやく開いた。
「東の魔法使い、ファウスト」
たった、それだけ。他にはとクロエに問われるも、きっぱり"ない"とだけ答えて、再び口を閉ざしてしまう。それに補足するかのように口を開いたのはヒースクリフだった。
「ファウスト先生は、東の魔法使いのまとめ役をしてくれていたんです」
けれどその言葉にファウストは更に眉間に皺を寄せて、掠れたように"二人石になった"と重苦しく答える。その場の空気までもが重苦しくなったところに、リケが質問を投げかけた。
「ファウストって、中央の国の建国に関わったと言われている聖なる魔法使いのファウストですか?」
(聖なる魔法使い……?)
意外な言葉にファウストを見やるが、彼は誰とも目を合わせずに人違いだと答えた。どうやら触れては欲しくない内容のようで、兄すらもそのことについて深くは聞けずにいる。