Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「……これは一体どういうことだ!?」
アーサー王子は燃え盛る炎を目にして驚きの表情を見せた。もちろん、ほかの魔法使いたちも同様に、私たちの置かれている状況をいまいち飲み込めていないようだった。驚く者もいれば平然としている者、呆れている者、そしていち早く状況を理解した者も。
シノが賢者を助けると飛び出そうとしたところを、フィガロと名乗った南の魔法使いが止めに入る。
「軍隊相手だと後が面倒だ。魔法を使って応戦しない方がいい。レノ、頼んでもいいかい?」
「分かりました」
南の魔法使いーーーレノックスという青年がこちらへと駆けてくるのが見える。兵士たちが慌てて弓に矢をつがえようとするが、それよりも早く懐に入り込み、兵士たちを回し蹴りした。
(す、すごい……魔法を使わないでこれだけの人たちを……)
倒れた仲間たちを引きずって兵士たちが逃げていく中、青年が私たちに手を伸ばして助け起こしてくれる。そんな彼の視線がファウストを捉えると、その目が大きく見開かれた。一方のファウストも息を飲んだようにレノックスを見つめている。
様々な感情が交差する中、アーサー王子が兵たちへと停戦命令を出す。バタバタと慌ただしく動き回りだした兵士たちや、辛そうな様子のファウストの元へ駆けていく兄を眺めて私は息をついた。
「まったく……散々な目にあいましたね……」
ずっと支えていたシャイロックがふいにそんなことを呟いた。
「……シャイロックさん、もう大丈夫なんですか?」
「ええ。お二人に支えていただいた直後から、急に治まってしまったので」
見ると胸元の炎は消えていた。まだ痛みが残っているのか、額には汗が滲んでいるが、先程のような苦痛の表情は見せていない。
「……一先ずみんな無事で良かったです。アーサー王子が居なかったらどうなっていたか……」
(……居なかったら……?もしアーサー王子がこの場に居なかったら、一体どうなっていたの?)
兵士と魔法使いの間で戦いが起きて、被害か大きくなっていたかもしれない。兄やシャイロック、ヒースクリフたちも傷ついていたかもしれない。この中の誰かが命を落としていたかもしれない。考えれば考えるほど恐ろしい状況が浮かぶ。