Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
連れていかれたのは、私たちがこの世界に来た時に見たのと同じような、エレベーターのある塔。中へ駆け込むとヒースクリフが足を止め、私は思わず後ろを振り返った。
「……!」
だが振り返った私の視界に飛び込んできたのは、炎に包まれて燃える中庭だった。私が度々見たあの光は、この場所を燃やすためのものだったのだと、今更ながらに理解した。
「塔にまで火が……!」
「いたぞ!弓で仕留めろ!」
私たちのいる塔に火が回ってきていることに気づき、ヒースクリフが火を消そうと試みる。
だが追ってきた兵士たちが胸の炎でうずくまってしまったシャイロックと、それを支えようとした兄に向かって矢を向ける。一斉に放たれた無数の矢が兄たちに迫った。
「お兄ちゃん!シャイロックさん!」
「賢者様!シャイロック!」
思わず叫んでそちらへと手を伸ばす。そんなことをしても私には何も出来ないし、何かが変わるわけでもない。伸ばした手は彼らに届くことも無い。
だけど危険に晒されている兄を目の前に、立ち止まっていることなど出来なかった。
(駄目……!お兄ちゃん……!)
けれど矢が彼らの眼前に迫った瞬間、静かな声が響いた。
「《サティルクナート・ムルクリード》」
炎に包まれて飛んできた矢が床に落ちた。ハッとして声のした方を見れば、大怪我をして眠っているはずのファウストが立っていた。
「ファウスト先生!」
「人間たちが襲ってきたのか……」
まだ本調子でないようで、彼は辛そうな表情を見せながらも、嫌悪の念を隠そうとはしない。
「お兄ちゃん……!」
「……し、死ぬかと思った……」
「シャイロックさんも……!」
「私は平気ですよ。この痛みさえなければですが……っ……!」
「あっ……!」
痛みに顔を歪めるシャイロックの体がクラりと傾く。慌てて兄と私が手を伸ばして彼の体を支えにかかる。そうして私たちが彼の体に触れた時だった。