Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「カイン、スノウさんとホワイトさんを!」
負傷者を含めた私たち5名を任されたヒースクリフは驚いて振り返り、私は双子の額縁だけでも預かろうとカインへ手を伸ばした。
だが一歩踏み出したところで躓いてしまい、私の体は前へ傾いた。額縁を差し出しかけたカインが手を伸ばして私の体を支えてくれたが、勢いのまま私は彼の胸元に顔をぶつけてしまった。
「ごめんなさい、カイン。ありがとうございます」
「俺はムルと兵士たちを止める。茜たちはヒースクリフに付いて安全な場所まで逃げ……」
「……カイン?」
窓の外へ視線を向けるカインの言葉が途切れ、私は彼の顔を見上げた。
「兵士……あれか……」
「カイン、見えるんですか!?」
「あ、あぁ……さっきまでは全く見えなかったんだが、急に見えて……茜、俺になにかしたのか?」
「私はなにも……」
外に集まる兵士たちの姿が見えるようになったらしく、カインは不思議そうに私の顔を見下ろした。掴んだままの手は力がこもっており、私もカインも動揺を隠せない。
「とにかく今はここを離れないとじゃない?」
「そうだな。ムルは俺と一緒に来い」
「分かった!」
ムルの言葉にカインは私の手を離して額縁を手渡してきた。私はそれを受け取ると窓の外を眺めて目を丸くした。
先程見た光が増えている。兵士たちの持つ灯りなのだろうが、それが暗闇を照らすためのものだけではないように思えてしまい身震いがする。嫌な予感はどんどん膨れ上がっていく。
「あそこだ、追え……!」
「《レプセヴァイヴルプ・スノス》」
ヒースクリフが懐から懐中時計を取り出してそう囁いた。食堂のテーブルや椅子が音を立てながら蔦のように絡まり、壁として兵士たちの行く手を塞ぐ。
「急いでこっちに!魔法舎の塔に隠れましょう!」
ヒースクリフが兄と共にシャイロックに肩を貸しながら先導する。