Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「おい、おまえら!」
そこに一際大きな声が響いたかと思えば、ブラッドリーが私たちの前に現れた。その表情はどこか楽しそうで、私は先程から続く嫌な予感が徐々に強くなっていくのを感じる。そうしてニヤニヤと笑みを見せるブラッドリーは魔法舎の結界を解いた、と口にする。
「なんだと!?」
「やれやれ、来年の〈大いなる厄災〉襲撃に備える前に、人と魔法使いの大戦が起きそうですね」
「あはは!平和なんてそんなもんだよ!余裕があるから仲良く出来るんだ。〈大いなる厄災〉のせいで世界はめちゃくちゃ!余裕がなくなったら、人も、魔法使いも、優しくできない」
ムルが額縁を抱えたまま空中をクルクルと飛ぶ。
(余裕がなくなったら優しくできない、か……)
〈大いなる厄災〉の影響で世界は混乱に陥っていると聞いた。そんな状況下で自分のことに精一杯であれば、他人に気を遣う余裕なんて持てるわけもない。例えそれが人であろうと魔法使いであろうと、誰もがそうならざるを得ないのだ。
だからドラモンドさんも魔法使いたちを手中に収めて自分が安心したいのだろう。そのために兄を利用しようとしているのだ。たったそれだけの衝突でこんなにも亀裂が深くなってしまうだなんて。
もちろん魔法使いたちも今回の〈大いなる厄災〉での整理がついていないはず。そこに対立している人間から謀られたり嫌悪の念を向けられれば、人間を信じたくなくなるのも仕方ない。
(だけどこんなの間違ってる。ここで争って得られるものなんてなにも無いのに)
もはや争いたくてうずうずした様子のブラッドリーへ視線を向けると、初めて会った時とは違う彼のオーラに思わず息を飲んでしまう。