Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
正直、オーエンに言われたことはまだ少し悩むところはあるけれど、これは私自身の問題なので、まだ彼には言わないでおこう。
「……それに、彼の言葉は事実だし……」
兄に聞こえない程の小さな声で、愚痴のようにそう呟く。
「え、なんて?」
「ううん、なんでもない」
「賢者様、ちょっといいですか?」
私が首を横に振るのと同時に、ドアがノックされてヒースクリフの声が聞こえてきた。兄が身支度をするから少し待ってほしいと頼み、上着を羽織るのを横目に私はドアから顔を覗かせた。
「あれっ、茜もいたんだ。少し寒いけど体は大丈夫?」
「心配してくれてありがとう。さっきスノウさんとホワイトさんが用意してくれたシュガーを入れたココアを飲んだから、大分楽だよ」
「そっか、良かった」
「すみません、お待たせしました」
兄がショールを巻きながらパタパタとかけてくる。扉を開けてヒースクリフの前に立つと、ショールについた鳥の羽のようなものがフワリと浮き上がった。
「……っ、くしゅん!」
「す、すみません、ショールの羽が……」
「いえ、大丈夫です。それより賢者様、ムルが魔法舎の周りにいた変なやつを捕まえたんです」
「変なやつ?」
「とりあえず来てもらえませんか?茜は……部屋で待っていた方が安全かも」
「ううん、私も行く。お兄ちゃんもいるし、ヒースクリフだって傍にいるんでしょう?」
私は"大丈夫だから"とついて行くことにした。肩にかけていた上着を羽織り直し、ヒースクリフの後を追いかける。
ふと、廊下の窓から外の景色が見えた。明るい星空の下、微かに見えた赤い光。それが何だったのかは分からなかったが、嫌な予感がしていた。けれどその嫌な予感が的中するなど、その時の私は知る由もなかった。