Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「お兄ちゃん、お疲れ様」
召喚の儀式を終えた兄は自室のベッドでぐったりと横たわっていた。
というのも、例の黒い水は相当ショックな味だったようで、兄はなんとか飲みきったものの、前の賢者と同じく泣いてしまうほどに舌をやられたようだった。もちろん匂いは私にも分かるぐらいに強烈で、血のような匂いどころか、今までもこれから先も一生嗅ぐことはないであろう、トラウマレベルの匂いがした。
鼻の奥にあの匂いが残っているような、妙な違和感を感じながらも、私は兄の行う儀式を見守った。
あの後ゴブレットを翳した兄の周りを風が取り囲み、ゴブレットから複数の光が飛んでいき、無事に儀式は終わった。シャイロックの説明によると、ゴブレットからとんでいった十の光は新しい魔法使いのもとへ行き、その魔法使いには紋章が浮かび上がるらしい。
シャイロックが自身の紋章を見せてくれようとしたのだが、何故か兄に視界を塞がれてしまい、結局スノウが首筋にある百合の花のような紋章を私に見せてくれた。紋章の浮かび上がった魔法使いは各地からこの場所へと集まってくるのだという。
「新しい魔法使いたち、どんな人たちが来るのかな」
「そうだね。でも、きっと大変だろうな。大変な役目に選ばれちゃって」
「それはお兄ちゃんもでしょう?」
「はは……まぁ確かに」
身を起こしながら兄は苦笑し、じっと私の方を見つめてきた。私が思わず首を傾げると、彼は自分の横へ来いと言うように手で示した。ちょこんとそこに座り込めば兄は私を抱きしめて頬を擦りつけてくる。
「そういえばカインから聞いたんだけど、オーエンに会ったんだって?」
「うん。朝食の後にちょっとね」
「何かされなかった!?大丈夫だった!?」
「えっと……色々言われて気絶させられたけど……」
そう答えれば兄はかっと目を見開いて私の肩を掴んだ。
「何言われたの!?怪我してない!?」
「お兄ちゃん、ちょっと落ち着いて……言われたことはもう気にしてないし、私は大丈夫だよ」
兄はこういう時、性格が豹変したように私の心配をしてくれる。少ししつこい時もあるけれど、それ程まで私のことを気にかけてくれているのは嬉しいことだ。