Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
その時、部屋の扉がノックされて、兄の声が聞こえてきた。どうやら儀式の準備が出来たようで、私たちを呼びに来てくれたらしい。
「ヒースクリフさん、行きましょうか」
「はい。……あの、また俺の話、色々聞いてもらえますか?茜さんに聞いてもらうと、何だか楽になるように感じるんです」
「もちろん、いつでも話してください。それであなたの為になるのなら、私は喜んでお相手しますから。……あ、では私たち、お友達になりませんか?」
「え、友達ですか!?」
「えぇ。その方がきっともっと話しやすくなりますし、私もヒースクリフさんともっと仲良くなりたいんです」
友達、というには何だか少し違和感があるのだが、元いた世界でもこの方法が仲良くなるのに一番適切なので提案をしてみたのだ。
ヒースクリフは"友達"ということばに少し戸惑っているようで、私の方を見ながらあせあせしている。
(異世界から来た人間に、友達になろうだなんて、そんなことを言われた魔法使いがいるわけも無い。そんな反応をされて当たり前といえば当たり前なのかな……)
けれど彼は何かを決めたのか、私の手を取ると照れくさそうにこう答えた。
「茜さん、俺と友達になりましょう。賢者様の妹としてではなく、俺はひとりの人間として、あなたと友達になりたいです」
「……ふふっ、まるで告白の台詞みたいですね」
「こ、こくは……」
「あっ、ごめんなさい。私余計なことを……」
「い、いえ……俺もガラにもないことを言ってしまったので……」
真っ赤になるヒースクリフを見ていた私も思わず赤面してしまい、私たちの間に沈黙が起きる。
「茜?そろそろ行かないと……って、2人とも一体何を……?」
なかなか部屋から出てこない私たちを心配したのか、兄が扉を開けて顔を覗かせてきた。そして互いに赤くなって視線を逸らす私たちの様子に、彼は首を傾げていたのだった。