Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「……一番良いのは、心に毒を持って人と触れ合うことです」
「……毒?」
私はヒースクリフからブラシを受け取りテーブルに置くと、彼の目を真っ直ぐに見つめて答える。
「これは完全に私個人の考えですけど、要するに相手を傷つけるための言葉と心を持つということです。ただ相手のために言葉を選んで、傷つけないように接するのでは、自分の気持ちは何も出てきません。その分、純粋なままで居られるのは利点でもあります。だけど毒を持つことで、自分を守ることだって出来るんです」
「そんな……相手を傷つけてまで自分を守るなんて、おれにはとてもじゃないけど……」
「違いますよ、ヒースクリフさん。本当に相手を傷つけるんじゃありません。そういう考えを持った上で自分の言いたいことを話すんです。毒は攻撃用の武器ではなく、盾なんです」
「……あなたは随分と難しいことを言うんですね」
「全部私の勝手な見解ですから、分からなくたっていいんです。そういう方法もあるというだけで、ヒースクリフさんにはヒースクリフさんなりの方法があるはずです。だから……諦めないでください」
何かが伝わればいいとか、彼にどうこうしてほしいとか、そんなことは思っていない。今言ったことは全て私のエゴでしかない。だから最後にどうするかを決めるのは彼自身に任せるしかない。
「まずは何気ない話でシノさんと本音で話してみることから始めれば良いと思います。時間はかかるかもしれませんが、きっと何か変わっていくはずです」
「……ありがとうございます。茜さん。俺のためにそこまで考えてくれるのは有難いですが、俺には少し難しいかもしれません。でもあなたの言葉は、何か不思議な力があるように感じました。魔法とまではいかなくても、これは……そう、勇気をくれるようで」
「そうであれば嬉しいです」
にっこりと微笑むと、ヒースクリフもをぎこちないながらに笑みを返してくれた。