Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「……約束を破ると魔力を失う?それじゃあ、どちらかが死んでしまったら……」
「約束を守れず、残った方は魔力を失います。だから余計にシノは……」
「もしかしてヒースクリフさんは、そのシノさんという人との約束が、自分の望んでいたものとは違うと、そう感じているんですか?」
彼の言葉はどこか複雑な思いを抱えていた。約束があるから互いを守る、そんな約束にしばられたものではなく、もっと別の意味を求めているのだと、そう感じ取れる。
「……俺はただ、友人としてあいつを守りたい。なのにシノはブランシェット家の従者として、約束を守るために、俺を守ろうと思っている。そんな関係、俺は望んでなんかいないのに……」
「……」
たった一つの"約束"で、こんなにも関係は崩れてしまうものなのか。魔法使いにとっての約束は、そんなにも重いものとなってしまうのか。
(私たちなんて、ちょっとしたことで約束して、時々約束を破って喧嘩して……それが普通なのに、魔法使いたちは"魔法使いとしての命"をかけて約束をしなければならないなんて……)
ヒースクリフの髪を梳く手が止まり、そっと振り返ると、彼はとても悲しそうな表情をしていた。それでも綺麗な顔で落ち込んでいるものだから、私はついその表情に見惚れてしまう。
そんな私の視線に気づいたヒースクリフは頬を染めながら視線をさまよわせた。
「あの……俺の顔に何かついていましたか?」
「あっ、いえ、そうじゃなくて……その……あっ!髪を梳かしてくださりありがとうございました。そろそろ戻りましょうか」
「……」
「……あの、ヒースクリフさん。思っていることは全て言葉にした方が良いですよ。例えそれが相手を傷つけるものだとしても、言わなければ何も変わりません」
「分かっています……」