Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「そういえばカインの目は左右で違うんですね」
食堂へ戻る最中、私はふと隣を歩くカインの瞳についてそう尋ねていた。
先刻会ったオーエンと同じ瞳をしていたことを思い出しながら彼を見上げれば、髪で隠れた左の赤い瞳がチラリと見えた。カインはそんな私の視線に気づいて髪を書き上げると赤いその目を見せてくれる。
「こっちの目は俺の目じゃないからな。性格の悪い魔法使いに無理矢理抉り取られて、代わりにそいつの目を埋め込まれた」
「もしかして、オーエンという魔法使いにですか?」
「どうして知っているんだ?あ、賢者様から聞いたのか?」
「さっき、オーエンに会ったんです」
「なっ……どこでだ!?」
「1階の西の方の廊下です」
ちょうど良いかと、私はあの時のことをカインに全て説明した。彼は驚いて話を聞いていたが、全て話終えるとひとつ息をついて私の頭を撫でてきた。
(この人、よく私の頭を撫でてくれるけど……そんなに子供じゃないのに)
けれどカインの行動の意味は私の思っていたのとは少しばかり違ったようで。
「怖い思いをしたみたいだな。守ってやれずにすまなかった」
「あ、いえ、全然いいんです。私が勝手に行動したのがいけなかったので」
「あいつは他人の気持ちを逆撫でするから、あまり真面目に受け取って話をしない方がいい」
「……皆さん、北の魔法使いを恐れているんですね」
そんな言葉を投げかければ、カインは少し悩む素振りを見せてから苦笑するように答えた。
「実際、北の魔法使いは力の強いやつが多い。個々が強いことに加えてああいう性格のやつばかりで、馴れ合いなんて知らない奴ばかりだ。こちらから歩み寄るには少し難易度が高いってとこだ」
「でも、賢者の魔法使いに北の方たちもいるんですよね?そんな人たちに協力を求めなきゃならないってことは……」
「ああ、そう簡単なことじゃない。肝心なのはスノウ様とホワイト様がどこまで説得できるか、オズが彼らを従えてくれるか。まあ最終的には賢者次第なんだが」