Fleeting promise【魔法使いの約束】
第2章 運命を持たぬ者
「……"ミスラ。MAX注意。見た目と敬語に騙されない方がいい。けだもの。"……"殺される"」
「凄い言われようなのね、このミスラって人……」
「会いたくなさすぎる……」
「シャイロックが気にするなって言った意味がよく分からなかったのだけど、こういうことだったのね」
北の魔法使いたちが"凶暴で危険"という言葉の意味がようやく理解出来た。そしてこれが北の国の特徴ということなのだろう。
(北の魔法使いが全員生き残るほどに、彼らが強いのは構わない。だけどこの人たちを信用するのは少し怖い……)
オーエンといい、このミスラといい、物騒な案件しか書かれていないことには、どこまでが私にとっての許容範囲なのか分からない。私自身が彼らにとっての賢者ではないので、そこまで深く考える必要も無いのだが、同じ世界で同じ場所で生きる以上、少しでも適切な距離を保たなくてはならない。
「……あれ?もうひとり……」
北の魔法使いのページがもうひとつあることに気づいた兄が、不思議そうにページをめくる。
そこには"オズ"と名前が書かれていた。私と兄は顔を見合わせて再び書へと視線を戻す。
ーーーオズ。北の魔法使いなのに、中央で召喚された。かつて、魔法で世界を支配した悪名高い魔法使いーーー
「悪名高い 支配者……俺はそんなふうに見えなかったけどな」
兄のそんな呟きに昨晩見たオズの姿を思い出す。
立つ姿には威厳と威圧感があったが、賢者の書に書かれているほどの感覚は受けなかった。ただ少し、不器用さを持ち合わせているような、そんな気がした。
「あれ、いつの間に戻っていたんだ?」
ふいに声をかけられたかと思えば、カインが私の脇に立っていた。その手にはシュガーの入った小瓶が握られており、彼はそれを私へと差し出してきた。
「双子先生からだ。あんたの体のことを賢者様から聞いて用意してくれたらしい」
「スノウさんとホワイトさんが?」
朝食作りの時にヒースクリフが言っていたことを思い出した。確か魔法使いのシュガーは体力回復や精神安定の効果があると。