Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
気がつくと私はまた、あの夜空の中にいた。前にも見た欠片のムルが干渉してきた時の世界だ。
「……怖かった」
ここにいるということは私は気を失ったのだろうか。オーエンに言われたことを思い出すと涙が込み上げてくる。
「必要とされていないのは、私が一番分かっているもの……」
ポケットに入れた魂の欠片を取り出して足元に転がし、数歩離れて腰を下ろす。
この世界では時の流れがよく分からない。待っていたのが数分なのか、それとも数時間なのか。ぼうっと見つめながら待ち続けていると、欠片がきらりと光った。そしてパープルサファイアはあの紳士的なムルへと姿を変えた。
『まさかあなたの方から私を呼ぶことになるとは』
「ごめんなさい。でも、ここに来たってことは、あなたとお話が出来るんじゃないかと思って」
『私と話を?それは嬉しい申し出だ。私もあなたとお話がしたいと思っていました』
「……大した話じゃないんですが」
『それでも構いません。あなたと友達になれたら嬉しいと、そう私は言いましたから』
ムルは座り込む私へと手を差し出した。その手を取ると勢いよく引き上げられ、私の体はふわりと浮いた。途端に地面が無くなり、私たちは夜空の中に浮く形となった。
『それで、話したいこととは?』
「ムルの魂……あなたのことはムルにお返しした方が良いんでしょうか?そもそも魂が砕けたムルは元に戻るんですか?」
『あなたはどうお考えに?」
質問に質問で返されてしまい、私は不服ながらもずっと考えていたことを口にした。
「砕けた魂が集まれば、戻るんじゃないかとは思います。だけどそれでいいのかは、私にも分かりません。砕けた魂はあなた以外にいくつあるのか、それすら分からないんですから」
『……では、その考え方で良いと思いますよ。私は望んであなたに干渉させていただいたので、私をどうするかはあなたの自由なのです。ムルに返すなり、壊すなり、お好きなようにするのが良いかと』