Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「……答えになっていませんが」
『答えは私にも分からない。だから今はそう答えておくのが最善だということです』
(何だかはぐらかされたような気がする)
「じゃあ、私があなたを所持し続けることも、構わないということですか?」
『それはそれで、またこうしてあなたとお話出来る機会があるというものです』
「じゃあ最後にひとつ」
私はぎゅっと手のひらを握りしめてムルを真っ直ぐに見据えはっきりと尋ねた。
「私がこの世界にいる必要はあるのでしょうか」
『……さて、どうでしょうか。あなた自身が自分を必要と感じていないとしても、周りが案外そうでない場合もあります。大事なのはあなたが、この世界でどうしたいか、ということでは?』
「どうしたいか、なんて……とっくに決まっています」
『ではそれを信じれば良い。私はそう思いますよ』
ムルの姿が揺らぎ、重ねていた手が消えた。いつの間にかムルの姿は無く、目の前にあのパープルサファイアが星のように輝いていたのだった。
「……ん」
目を開けると私は壁にもたれかかっていた。どうやらオーエンの魔力に当てられて気を失っていたらしい。
当のオーエンの姿はすでに見当たらなかったが、掴まれていた腕に痛みが走り、あれは現実だったのだと理解する。
(オーエン、とても怖かった……だけど)
何故だろう。思い出してまた震えが来るかと思っていたのに、今はまったく恐怖を感じない。
「私は……お兄ちゃんのように、みんなの役に立ちたい」
ふとムルに問われたことを口にする。これを聞いたオーエンはきっと面白くない顔をするだろう。それでもいい。
「なにか、少しでも……」
彼がなんと言おうと、私の役目は自分で探してみせる。それで本当に必要とされていなければその時は身を引けばいい。
心の中で新たな覚悟を決め、私は早足で食堂へと戻るのだった。