Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「何の役にも立たない人間なのに、よく強気で居られるね」
「わ、私は……」
彼の言葉は私の痛いところをついてくる。あえてそこを狙っての言葉なのだから、彼はきっと私を快く思ってはいない。シャイロックの言っていた、北の魔法使いは凶暴で危険というのは、こういう意味でもあっただろう。
震えが止まらなくて涙が込み上げてくるが、ここで泣いてしまっては彼の思うつぼだ。必死に涙を堪えて後退りをすると、ふいに腕を掴まれた。
「逃げないでよ。もっと僕と遊ぼう」
「は、離してください」
「やだ」
「……カインたちを呼びますよ」
「別にいいよ」
「……あなた、北の魔法使いですか?」
「そうだよ。北の魔法使い、オーエン」
「オー……エン……」
「なに?僕の名前、気に入った?」
「……手を、離してください」
「やだ」
会話をする間、オーエンはまったく私の目から視線を逸らさない。掴まれた手が震えると、オーエンは私の腕を掴む力を強めた。
「痛……」
「君のこと、もっと知りたい」
「……やだ……」
「あはは、僕と同じこと言ってる」
「やだ……離してください……」
「ふふ、面白い」
掴まれた手を振りほどこうにも、オーエンはそれをさせまいと力を込め続ける。その力があまりにも強くて痛くて、ついに片目から涙が零れた。
それを見たオーエンはようやく手を離してくれた。私は痛む腕を支えてその場にへたりこんでしまい、こぼれる涙を拭う。
「……」
オーエンはそんな私をしばらくの間見下ろしていたが、急に冷たい表情になると、私に向かって一言言い放った。
「《クアーレ・モリト》」
途端に頭に強い衝撃が走り、私は頭を抑えた。なにかに頭を鷲掴みにされている、頭が割れそうな痛みだ。
歪む視界にオーエンを捉え、助けを求めようと痛む手を伸ばす。けれどもう少しで手が届く寸前で、私は意識を手放した。