Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
先に朝食を食べ終え、魔法使いたちと話をしていた兄が食べ終わるのを待っている間、私は魔法舎と呼ばれるこの建物の中を少し見て回ることにした。
けれど興味本位のこの行動を私は後悔することとなった。
「ねぇ、君だれ?」
「!」
長い廊下を歩いていると突然、背後に誰かが立つ気配がして、そんな声をかけられた。妙に落ち着いた声ではあるが、どこか殺気のようなものを含んだ声色をしている。
振り返ることはできず、私はぎゅっと唇を引き結んだ。すると背後の気配から殺気が消えた。驚いて思わず振り返ると、そこには左右の目の色が違う青年が立っていた。
(あれ、この目の色って確か……)
彼の目はカインと同じ色をしていた。左右逆ではあるが、この輝きはカインの瞳そのものだ。
「へぇ。面白い力を持ってるんだ」
「え、あの……」
顔をぐいっと近づけられて、私は言葉を失くしてしまう。彼の目は恐ろしく、目を合わせていると飲み込まれてしまいそうだった。
(もしかしてこの人も、魔法使い?それも北の……)
昨日感じた気配が彼だと分かり、背筋が凍りつきそうなほど恐怖を感じる。目を逸らしたいのに何故だか逸らすことができない。その異質なまでのオーラと恐怖に肩が震えた。
「ねぇ、君は新しい賢者様?」
「……」
「僕の質問に答えてよ。君は、新しい賢者様?」
「……ち、違います。賢者は、私の兄の方です……」
振り絞るようにして言葉を返すと、彼は私の目を見つめたまま更に尋ね返す。
「賢者じゃないのに、この世界に来たの?呼ばれたわけでも必要とされてるわけでもないのに?」
「それは、私がお兄ちゃんと一緒に居たから……」
「なら帰ればいいのに。あいつらが必要なのは賢者様だけって、君も分かってるんでしょ?」
「……っ、帰る方法があるなら、とっくに帰ろうとしてます!」
思わず声上げてしまってから、私ははっとして口を閉ざす。目の前の彼が侮蔑するような視線で私を見下ろしてきたからだ。