Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
兄もヒースクリフの様子に気づいているようで、彼が安心するように笑いかけた。
「ありがとうございます。助かります」
「いえ、何を作るんですか?」
「おじやです。ヒースクリフさん、卵はどこにあるんでしょう?」
「前の賢者様が作ってくれた、ミルク粥みたいなやつだ。卵はですね……」
エプロンを身につけるヒースクリフが指先を軽く振ると、窓が勝手に開いて卵が宙を飛んできた。開いた窓から身を乗り出してみると、近くに鶏小屋のようなものがあった。
コポコポという音に視線をヒースクリフに戻せば、鍋に水が注がれて同時に沸騰する。そして兄が手にしていた『気持ち昆布』の瓶から乾燥した海藻が浮き上がり、鍋の中に投入された。途端に悲鳴のような音が『気持ち昆布』からあがる。
(すごい……魔法でこんなことも出来るのね……)
キッチンを飛び交うものに私も兄も呆然としてしまう。自身の手を使わなくても料理が出来てしまうなんて、なんて便利なのだろうか。
いつの間にかヒースクリフはコーヒーをドリップしていた。
「魔法使いって便利ですね……コーヒーは魔法で作らないんですか?」
「自分でドリップした方が美味しい気がするんですよね。シュガーは魔法で作りますけど」
ヒースクリフは鍋の中身が煮えてきたことに気づくと卵を割り入れた。
「魔法使いのシュガーは、体力回復や精神安定の効果があります。だから人間が買いに来たりします。……茜さん、手のひらを出してください」
「?」
言われて手のひらを差し出すと、ヒースクリフは人差し指で手のひらを指差した。すると星型の綺麗な砂糖が私の手のひらに現れる。
「わぁ、綺麗……!」
「本当だ……すごいですね!」
「大したことはないです。魔法使いなら皆できます」
兄が私の手からシュガーをつまみ上げると、すぐに砕け散ってしまう。その手触りはヒースクリフらしいものだ。
「よし、完成です。皆のところに運びますね」
「私にも手伝わせてください」
おじやが出来上がると、私たちはそれをお椀とともに盆に乗せてキッチンを後にした。