Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「あの、私がやりましょうか?」
「俺もやりますよ」
「本当?おじやは作れる?」
「おじや知ってるんですか?作れます!この世界でもおじや食べれるんですね!」
「凄い感激してるな……」
「ならお任せます。キッチンにご案内しますよ」
兄と共に自ら名乗り出れば、ムルにおじやを作れるのかと聞かれた。まさかこの世界におじやが存在するのかと、内心驚いてしまう。おそらく前の賢者が伝えたからなのだろうが、元の世界の料理が食べられるのはありがたい。
シャイロックに付いてキッチンへ向かうと、そこには見たことも無い食材が瓶詰めで並べられていた。
「えっと……『気持ち米』……『気持ち昆布』……?」
「似てるは似てるけど、これ本当に大丈夫かな……これなんか、『かなり味噌』って書いてあるけど、どう見ても……」
「色が緑でネバネバしてるような……」
「前の賢者様、相当苦労したんだなぁ……」
私たちは瓶を手に取っては前の賢者が書いた文字と中身を比べて首を傾げたり、匂いを嗅いでみたりしてみた。
どうやらこちらの世界は食材からまったく違うらしい。果物や肉といったものは何となく形が似ていたりするので間違いないのだろうが、米や調味料は色も匂いも違うので、このメモが無ければまったく検討もつかなかっただろう。
「とりあえず、このお米みたいなものでおじやを作ればいいのかしら……」
「米はそれを使うとして、だしはこの『気持ち昆布』?」
「でも卵はどこ……?」
「材料でこんなに苦労したの初めてだよ」
材料を探して棚の中を覗き込むと、兄は苦笑しながらもため息をついた。するとそこにヒースクリフが駆け込んできた。
「賢者様、茜さん、俺が手伝います」
腕まくりをしながら笑いかけてきたヒースクリフの笑顔は、少しぎこちない。彼はきっと社交的なタイプではない。ただ、昨日の兄とファウストの件があったから、歩み寄ろうと頑張っているように見える。