Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
ひと通り話を終えたあと、私たちは食堂へとやってきた。中に入るなりカインは嬉しそうに報告をする。
「賢者様が新しい魔法使いの召喚を引き受けてくれたぞ」
けれど彼は急に不思議そうに首を傾げた。
「あれ?まだ誰も居ないのか?」
「いるよ!俺とシャイロック!」
ムルが奥の方でこちらへと手を振ってくる。だがカインはさらに首を傾げて彼に尋ねる。
「ムル?どこにいる?」
「あの、ムルさんならそこに居ますけど……」
「カイン……やっぱり目がおかしくないですか?」
食堂の中にはムルとシャイロックがいて、こちらへと視線を向けているが、カインは2人の存在に気づいていない。
そこへスノウとホワイトが現れ、ファウストの容態を聞こうとシャイロックが彼らの元へ歩み寄る。けれどその直後、カインが歩き出したかと思えば、シャイロックと正面からぶつかった。まるでシャイロックのことが見えていないかのように。
「シャイロック、いきなり目の前に現れるな」
「ぶつかって来たのはそちらでしょう」
「そういえば双子先生の姿も見えない」
(すぐ横にいるのに……?)
先程からカインは他人の姿をはっきりと認識出来ていない。
今のところ私と兄、シャイロックは見えているようだが、それ以外は視界の範囲にいても見えていないようだ。
「それより聞いてくれ。賢者様が新しい魔法使いの召喚を引き受けてくださったんだ」
カインの言葉を聞いた魔法使いたちは各々嬉しそうな声を上げる。
「感謝するぞ、賢者よ。それでは昼過ぎに召喚の儀式を行うことにしよう」
「それまでは、ごゆっくりなさって。まずは朝食にしましょう。カイン、ヒースクリフを起こしてきてください。朝食を作れる者がいないんです」
「あいつ作れるのか?あんたは?」
「朝から他人に奉仕したくありません」
どうやら料理が出来たのは魔女や南の魔法使いたちだったようで、彼らが皆石になってしまったことで、この中でまともな料理が出来るのはシャイロックぐらいらしい。
カインが自分がやろうかとも言っていたが、"ぶっこんで煮ればいいんだろ?"という言葉からして、あまり期待はできない。