Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
兄の言葉にカインだけでなく私までもが驚いてしまい、思わず兄の方を見上げた。彼は驚く私ににっこりと微笑み、そっと頭を撫でてきた。
「茜の体が弱いことは昨日話したと思うんですが、ここには喘息の薬がありません。もしまた同じように発作が起こらないとも限らない状態に、茜をおいておきたくないんです。どうかお願いします」
「お兄ちゃん……」
「それぐらいお安い御用さ。……それにしても、賢者様は妹想いなんだな」
「俺にとって大切な妹ですから」
「家族にそこまで愛されてるなんて、茜は羨ましい限りだな」
「わっ……」
そんな言葉と共にカインに頭をぐしゃぐしゃに撫でられ、思わず私は赤面してしまう。
兄はいつでも私のことを大切にしてくれる。どんな時だって私の味方で守ってくれたし、喧嘩だってほとんどした事がなかった。
周りからはシスコンだとか色々言われていたけれど、それでもひたすらに私のことを可愛がってくれるほどに、私にとっても兄は大切で自慢のお兄ちゃんなのだ。
「それで、俺たちからも賢者様に頼みたいことがあるんだ。新しい魔法使いを召喚してくれないか?」
「新しい魔法使い?」
「そういえばシャイロックさんとの話では、賢者の魔法使いは東西南北中央の各国から4人ずつ召喚されるって聞きました。本来なら20人いる魔法使いが10人になってしまったって……」
「その通りだ。欠員が出た時は、賢者にしか召喚出来ない。良ければあんたに頼めるか?」
兄はカインの真剣な表情に少し迷っていたが、やがて"自分に出来ることがあるなら"と頷いた。
(良かった。お兄ちゃんにはこの世界でもやれることがあるみたい。だけど私は……?)
この世界へ呼ばれても、賢者という存在である兄には彼らのために出来ることがある。だけどその兄のおまけでやって来た私には、一体何ができるのだろうか。
兄に心配をかけて身の安全まで保証してもらうだけで、私が彼らに返せるものはなにもない。
そう思うと私の中には、この世界においては疎外感しか生まれてこないような気がしてくるのだった。