Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「〈大いなる厄災〉が接近しすぎたせいで、王都にも大きな被害が出ているだろう。賢者様はアーサー殿下に会いたいと言っていたよな?だが王都の被害の規模が分かって、復旧作業が落ち着くまでは、少しの間、待っててもらえないか?」
「お兄ちゃん、アーサー殿下って?」
「前の賢者が元の世界に戻るために協力してくれた人らしいんだ。彼なら何か知ってるかもと思って」
兄は手にしていた分厚い本を見せてくれた。前の賢者がこの世界のことについて書いたものらしく、賢者の書と呼ばれているらしい。
中身を見せてもらうと、日記のようなマニュアルのような、如何にも社会人が書いたと思われるような文章が並んでいる。その中に"アーサー王子"という文字が時々見つかり、一体どんな人なのだろうかと私は淡い期待を抱いた。
もし彼が本当に帰るための手段を知っているのなら、一刻も早く話を聞いて元の世界へ帰りたい。
だけどカインの言うことも最もで、力のある魔法使いたちですらあんなにボロボロだったのだから、きっと王都の被害はそれ以上に深刻なのだろう。
「本当は早く帰りたい……でも、この世界の人たちもきっと大変だと思うから……私はそれが収束するまで待ってもいいと思う」
「そうだね。俺もそう思うよ。カイン、大変な時にわがままを言ってすみませんでした」
「何を言ってる。あんたたちが大変な時にこっちがわがままを言ってるんだ」
「それに何か俺たちにできることがあれば、ここにいる間だけでもやらせてください」
「本当か?」
「……ただ、代わりにひとつだけお願いがあって……」
「もちろん、俺たちがやれることならいくらでも協力する。なんでも言ってくれ」
少しためらったような兄の言葉に、カインは自身の胸を叩いてそう答えた。すると兄は私の方へ視線を向けて言った。
「妹の身の安全と健康を保障してほしいんです」
「……!」
「それは構わないが……」