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Fleeting promise【魔法使いの約束】

第1章 壊れかけの世界




ベッドから起きてムルに振り回されてそのままだったので、よく考えてみれば靴どころか身支度もまともに出来ていない。見た目は別に悪くは無いのだが、少し恥ずかしいような気もした。

結局私はカインに抱きかかえられたま少し歩くこととなった。



(昨日ここに来てからずっと抱いてもらってばっかりな気がする……)



昨日はシャイロックに抱きかかえられて、今はカインに。何だか申し訳なさでいっぱいになり、出来れば降ろして欲しいと頼めば、彼は近くの噴水の縁に座らせてくれた。



「……やっぱり大きいですね」

「何が?」

「月です。この世界の月はとても大きいなって」



ふと兄が空を見上げてそう言った。確かに月が大きい。私たちのいた世界よりも大きくて明るい月は、まるで、こちらに迫ってくるような感じがする。



「昨日、襲来したばかりだからな。……あれが〈大いなる厄災〉だ」



(夢の中のムルも言っていた〈大いなる厄災〉……まさか月のことだったなんて)



「〈大いなる厄災〉は年に一度襲来して、この世界を滅ぼそうとする。そして襲来する月を迎撃して空に返すのが、賢者の魔法使いの役目なんだ」

「それじゃあ私たちがここに来た時、カインたちが疲弊していたのは、〈大いなる厄災〉と戦ったあとだったからですか?ファウストさんのあの傷も、月と戦ったことで……?」

「というか、月と戦うんですか!?」

「そうだ。あれが俺たちの戦っている相手だ。それに毎年のことだから俺たちはそこまで悲観してはいなかった。世の中にある厄介事なんて、そんなものだし、綺麗な終わりなんて無い。だから辛抱強く続けていくだけだと思っていたんだが……今年の〈大いなる厄災〉はおかしかったんだ」

「おかしかったというと……」

「ありえないくらい強力だった。歴戦の魔法使いたちが敵わないほどの力でこの世界に接近してきてな……」



(ファウストさんがあそこまで重症になって、20人もいた魔法使いたちが半分になるほど手強い月って一体……)



あの月が迫ってきて10人の魔法使いたちを死へと追いやっただなんて。そもそも月が襲来するなんて、何故そんなことが起きているのかすら想像ができない。

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