Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「ほら、どうしたんだ?」
「ええと……流石にここから飛び降りるのは怖いです……」
「大丈夫だ。俺がちゃんと受け止めてやる」
(飛び降りる選択肢しか頭に無いのかな……)
「茜、無理しなくていいから普通に降りてきて!」
兄は必死になって私を静止する。
「じゃあ俺の箒に乗る?」
ムルが窓の脇に寄ってきながらそんなことを言った。昨日の兄と彼の様子を知っている私は、ムルの箒に乗るのは少しはばかられてしまい言葉につまる。
(空に行くわけじゃないから、そこまで危なくはないと思うけど……どうしよう)
「どうする?どうする?」
「……じゃ、じゃあ、お願いします」
「わーい!じゃあ後ろに乗って!」
彼の押しに負けた私は窓枠に手をかけて身を乗り出し、ムルの箒に飛び乗った。だが次の瞬間、彼は唐突に箒を発進させた。
「あ」
ムルのほうけた様な声に、何となくこうなる気はしていた私はすぐ後悔した。彼に掴まる間もなく私は箒から滑り落ちてしまい、ぎゅっと目を瞑った。
てっきり鋭い痛みが来るのかと思っていたのだが、感じたのは包まれたような温かさで……。
「大丈夫か?」
「カイ……ン……?」
目を開けるとカインの視線がぶつかった。私の体はカインの腕の中にすっぽりと収まっており、彼が受け止めてくれたのだと分かった。
「ほら、ちゃんと受け止めただろ?」
「あ、ありがとうございます……カインさん……」
「さんは要らない。それに、さっきカインって呼んでくれただろ?」
「あれは驚いてつい……」
「まぁ、好きなように呼んでくれればいいさ。賢者様にもそう言ったしな」
カインは私を降ろそうとして、ふと気づいたように抱き直してきた。そこで私も重要なことに気づく。
(靴、そういえばまだ履いてなかったんだっけ)