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Fleeting promise【魔法使いの約束】

第1章 壊れかけの世界




夢で出会ったムルと目の前のムルは同じ人で違う人。おそらく目の前のムルはこの欠片のことを知らないだろう。

たとえ知っていたとして、私はどうすれば良いのだろうか。ただこの欠片のムルが私にこれを渡してきたということは、何かしら意味があることだけは分かるが、その意図までは知る由もない。

欠片を握りしめて顔を上げると、シャイロックが驚いたように私の手元を見つめていた。それを不思議に思い声をかけようとした時。



「あ、賢者様とカインだ!」



いつの間にか窓を開け放っていたムルが外を見下ろしてそんな声をあげた。それを聞いた私は思わず窓に駆け寄るとたまらずに叫んだ。



「お兄ちゃん!」



私の声が届いたようで、カインと共に歩いていた兄がこちらを見上げてパッと顔を輝かせた。



「茜!もう大丈夫なの!?」

「うん、眠ったらとっても楽になったの!」



笑みを浮かべると兄はこっちに下りておいでと言った。私は早速そちらへ行こうと身を翻したが、腕を引かれて留まった。



「こっちからの方が早いよ〜」

「えっ……待っ……」

「茜さん!」



私の腕を引いたのはムルで、窓枠から身を乗り出した彼に驚いてぐっと窓枠に手をかけて必死に止めようとする。

シャイロックが慌てて私の体を引き寄せてくれたので、私自身は落ちることが無かったが、既に体を外へと放り出していたムルは2階から飛び降りていた。

2階といえどそこそこ高さのあるところから飛び降りるなんて……と青ざめた私を驚かせるかのように、ムルは箒に乗ってまた戻ってきた。その表情はとても楽しそうだったが、何故だかあまり文句を言う気にもなれない。



「妹さんか!ほら、飛び降りてきてもいいぞ!」

「え……えぇ!?」

「カイン、何言ってるんですか!?あそこ2階ですよ!?」



だが今度は私を見上げてきたカインが唐突にそんなことを言い出したかと思えば、彼は両腕をこちらへと伸ばしてきた。

どうやら自分が受け止めてやるから飛び降りてこいということなのだろうが、流石にそんな勇気などない。たとえ兄でもここから飛び降りようとは思わないだろう。

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