Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「……ん、……ちゃん!妹ちゃん!」
「!」
ぱっちりと目が覚めて目の前にあったのは、先ほどまで見ていたのと殆ど同じ顔だった。ただし夢の中の顔よりやんちゃな目つきで上下反対ではあるが。
「ひゃあぁぁ!っ!」
「あいたっ!」
驚いて思わず飛び起きれば額と額がぶつかり合い、私たちは互いに額を抑えてうずくまる羽目になった。
「ムルさん……どうしてそんなところにいるんですか……」
「だって朝だから!起こしにきた!」
どうやらムルは枕元で浮かびながら私を起こしてくれていたらしい。そのまま私の顔を覗き込んでいたので目を覚ました私の視界に彼が映ったわけだ。
正直びっくりしたが、それよりもぶつけた頭の方が痛くて私は額を抑えたままベッドへと腰かけた。
「妹ちゃん、痛い?」
「それはまぁ……」
「こらムル。せめて謝るぐらいはしたらどうです」
「ごめんね。でも面白かった!」
いつの間にか扉の近くにシャイロックが立っている。能天気なムルに私は苦笑してから、自分が左手に何かを握りしめていることにようやく気付いた。そっと握った手を開くと、そこには夢の中で拾い上げたパープルサファイアの欠片が。
(夢……だけど夢じゃない……?)
思わずムルの方を見上げるが、彼はにこにこと笑みを浮かべたままだ。
(彼が知っているわけもないよね……砕けた魂のひとつとか言っていたもの……)
改めて石を見ると、夢の中で見た時ほどの輝きはなかった。何も知らなければ普通のパープルサファイアと同じにしか見えない。
(これ、私が持っていていいものなの?)