Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
(10人の中に、南の魔法使いの人が居ない。もしかして彼らは皆……)
そう考えると唐突に胸が苦しくなる。シャイロックはそんな私の心中を察してか、そのことに関してあえて何も言ってはこなかった。
ブラッドリーは淡々と話すシャイロックの言葉を面倒くさそうに聞きながらも、扉の横で私の方を見つめていた。そして私の表情が少し曇ると、怪訝そうな表情を見せる。
「あの、お兄ちゃんは今……?」
「きっとあの双子と色々話をしていると思いますよ。前の賢者のこともありますし、恐らく書庫かと。それより、話が長引いてしまいましたね。今日は一先ずお休みいただいて、また明日にでも」
「はい……色々とありがとうございました」
「いいえ、巻き込んでしまったのは私たちの方ですから、お気になさらず。ブラッドリー、この部屋に結界を張るのを手伝っていただけますか?」
「あ?なんで俺がそんなもん……チッ、仕方ねえか」
ブラッドリーは舌打ちをしながらも扉の前に立つと、不思議な言葉を口にする。
「《アドノポテンスム》」
途端に部屋の床いっぱいに魔法陣のようなものが展開された。そして淡い光を放つとそのまま薄らと消えていく。
「今のは……?」
「この部屋に結界を張りました。滅多にそんなことはありませんが、余計なものが入らないように。それから……《インヴィーベル》」
今度は別の魔法陣が展開された。光が消えると、妙にふんわりとした心地になり、一気に眠気が襲ってくる。
「心が落ち着ける香りを。お休みなさい」
シャイロックのそんな言葉と共に、私の意識は深い眠りの底へと落ちていった。