Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「ここは元々客間として使っていた部屋です。賢者様の部屋とは少し離れてしまいますが、こちらでお休みください」
シャイロックに抱き抱えられたまま連れてこられたのは、二階にある端部屋だった。客間というだけあって綺麗に掃除されており、中々に華やかな内装である。
ゆっくりとベッドに下ろされた私は、部屋を見回してからシャイロックを見上げてずっと気になっていたことを口にした。
「あの……ここに来た時に言っていた、北の魔法使いを気にしてはいけないって、どういう意味なんですか?」
「おや、気になるのですか?気にしてはいけないと言ったのに」
「俺たちが何だって?」
話を聞いていたブラッドリーが唐突にそう答えたので、私は驚いてしまった。
彼も北の魔法使いだと聞かされ、北はとにかく凶暴で危険な人物が多いという。シャイロックの言葉にブラッドリーは偏見だとかなんとか言っていたけれど、彼を見る限りでは何とも言えない。
ただひとつ、あの視線が本当に北の魔法使いのものであれば、恐ろしい人物であることに間違いはない。
なんと答えて良いか返答に迷っていると、シャイロックはくすりと笑い、"だから気にしてはいけないと言ったでしょう"と、私の隣に腰を下ろした。
「彼は北の魔法使い、ブラッドリー。元は盗賊団のボスをしていたようで、現在は囚人でもあります」
「囚人!?」
「なんだよその目は」
「え、だって囚人なのにこんな堂々と外を歩いてるのって……」
「これでも一応、賢者の魔法使いですからね。役目のために一時的に牢から出されているに過ぎません」
「じゃあまた牢に……?」
「それはスノウ様とホワイト様の判断によりますね」
「もしかしてあの双子の方々ですか?」
黒髪で子供の姿をした双子を思い出してそう尋ねる。
「えぇ、彼らも北の魔法使いです」