Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
どうしようかと迷って兄を見上げると、彼はシャイロックの方を真っすぐに見据えた。
「あの、ひとまず妹を休ませてやってもらえませんか?」
「お兄ちゃん、本当に大丈夫……」
「そう言って今まで何回悪化したか覚えてる?俺、いつもすごく心配してるんだからね?……お願いだから、もっと自分を大切にして」
「……うん」
私は今にも泣きそうな兄の表情を見てゆっくりと頷いた。
するとシャイロックが兄の腕の中から私を抱き上げた。見た目は華奢でそこまで力がありそうには思えなかったのに、意外にも私を抱く力は強く、思わず赤面してしまう。
「あ、あの、そこまでしてもらわなくても……」
「ですが、こうでもしないとあなたはここから動くことが出来ないでしょう。それともブラッドリーに抱えていただきますか?その場合、抱かれ心地は保証しませんが」
「おい、それどういう意味だ」
「そのままの意味ですよ。あなたの場合、荷物でも運ぶように彼女を抱えそうですから」
「荷物……」
兄があり得ないといった様子でドン引きしているのが分かる。まあ確かに、私も荷物扱いされるのは御免ではあるが。
「このままでお願いします……」
「えぇ、お任せください。では賢者様、妹さんをしばらくお借りします」
「よろしくお願いします。茜、何かあったら必ず言って。俺がすぐ行くから」
「うん」
兄が私の頭を撫で、シャイロックは微かに微笑むと私を抱きかかえたまま部屋を出た。その後ろをブラッドリーが不服そうについてきた。
彼の様子をシャイロックの肩越しに覗き見ると、彼は私の視線に気づいたのか、鋭い目つきで私の方を睨みつけてきた。
「何だよ、言いたいことがあるならはっきり言え」
「いえ……魔法使いにもいろんな方がいるんだなって思って……」
「それはそうでしょう。人間が数多に存在するように、魔法使いも各地に大勢います。私は元々バーを営んでいましたが、もっと深く考えてしまえば、来店する魔法使いの方々に同じ方は誰一人として存在しません。きっとあなたの中での魔法使いという存在は、一貫して同じものなのでしょう」