Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「……茜、俺たちこれからどうしようか……」
「私は……元の世界に帰りたいけれど……」
「そうだよね……俺も帰りたい……」
「この人たちにそれを伝え…………っ!!」
「茜!?」
小声で兄とこれからのことを話していると、ふいに体から力が抜けて私はその場に倒れ込んでしまった。
呼吸が苦しい。胸が締め付けられる。はくはくと口元を動かして必死に助けを求めようとすると、兄が倒れた私の様子を見て一気に青ざめた。
「茜、息が出来ないの!?」
「おに……ちゃ……」
「ゆっくり、落ち着いて息をして……!」
必死に兄の声に答えようとするが、呼吸が上手くできず声が途切れ途切れになってしまう。
突然慌てだす兄の様子に、周りにいた魔法使いたちは私の方を覗き込んできた。部屋を出ようとしていたオズもこちらを振り返って僅かに目を丸くした。
「急にどうしたんですか!?」
「発作が……茜!茜……!」
「呼吸が辛そうですね。……オズ」
シャイロックがオズの名を呼んだ。彼はしばらく黙ったままだったが、何を思ったのか私と兄の前へやってくると、膝をついて一言紡いだ。
「《ヴォクスノク》」
彼の杖が光を放ち、私の中へと吸い込まれていく。それと同時に体が軽くなる感覚に襲われ、息苦しさが一気に消えた。
大きく息を吸うとようやくはっきりと言葉を発することが出来た。
「おにいちゃん……大丈夫だよ……」
「本当に?無理してない?」
「……おい、一体何がどうなってんだ」
顔に傷のある青年が私たちを上から覗き込んでそう尋ねてきた。
ヒースクリフも寝台の横で心配そうな表情をしてこちらを見ている。目の前にいるオズはあまり表情を変えずに、ただ私の瞳を見つめてくる。
「……きっとこの状況に体が追いつかなかったのでしょう。訳の分からないことに巻き込まれたら、誰だって驚くでしょうから」
「そっか……賢者様たちは呼ばれてすぐに俺たちのところに来てもらったから……」
「いえ……皆さんのせいじゃありませんから……私は本当に大丈夫です。オズさんもありがとうございます……だいぶ楽になりました」
「……」