Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
扉を開けると大勢の人たちがこちらを振り返った。そして彼らに囲まれるようにしてベッドへ横たわるひとりの男性の姿が。
(あの人がファウスト……?)
彼は血の気のない真っ白な顔をしており、その体からは煙が上がり、火花のようなものが時折弾け飛ぶ。
「賢者か!」
「賢者がやってきた!」
「つか、賢者が2人いるじゃねえか」
「本当じゃな」
「不思議なこともあったものじゃ」
「2人は兄妹で、多分どっちかが巻き込んでしまったみたいなんだ」
事をカインが簡単に説明すると、姿がそっくりな黒髪の片割れが興味をもった視線で私たちを見つめた。
「それよりもファウストの容態は?まだ生きてます?」
「……生憎な……」
シャイロックの言葉に返事をする彼の声は掠れてひどく弱々しかった。声を出すのもやっとのように感じられ、ヒースクリフが寝台にすがりついた。
「ヒースクリフ……お前に、怪我は……?」
「……っ、ありません……」
「……そう……良かっ……」
「!」
微かに微笑んだように見えたファウストの表情がとまり、ヒースクリフへと伸びた手がぱたりと寝台へ落ちる。開いたままの目には光がなく、まるで抜け殻のようだ。
「いかん!息をしとらんぞ!」
「賢者よ、急ぐのじゃ!」
「急ぐって言っても、どっちが本当の賢者なのか……」
カインの言葉に双子の片割れが迷うことなく兄の方へと視線を向けた。
「賢者はそっちの兄の方じゃな。妹の方も賢者と同じような力を持っているようじゃが、賢者ではない。のう、オズよ」
「……確かに、どちらからも賢者の気配がする。だがその娘は今までの賢者とは少し違う。……賢者よ、手を」
「俺、ですか……?」
兄が私の方へと視線を向けてから、オズと呼ばれた怖そうな青年へと歩み寄る。
「私の名はオズ。中央の魔法使いだ。おまえの力を借りる」