Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「到着!」
「……お兄ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
しばらく空を飛び続けて目的地へ到着すると、兄はグロッキー状態だった。ここに来るまでの間、ムルはほとんどの時間を乱暴とも言えるほどに荒っぽい飛び方をしていた。
私はといえば、カインが丁寧に飛んでくれていたので、慣れない箒に酔うことも無かった。
「ファウスト先生……!」
ヒースクリフがいても経っても居られない様子で、奥へと駆けていく。
カインに手を引かれて何とか立ち上がった兄と共に彼の後を追うと、ふいに背筋が凍るような悪寒に襲われた。誰かに見られている、そんな気配に思わず立ち止まって来た方を振り返る。けれどそこには誰もおらず、感じていたものもすぐに消えてしまう。
(……何だったんだろう……飲み込まれてしまいそうな感じだったんだけど……)
「どうしました?何か気になることでも?」
立ち止まった私に気づいたシャイロックが私の耳元で顔を寄せて囁いた。その甘美な声に思わず肩が跳ね、耳を抑えれば彼はくすりと笑った。
「えっと……誰かに見られていた気がして……」
「ああ。きっと魔法使いの誰かでしょうね。大方、北の魔法使いでしょうけれど。気にしなくていいですよ。というか気にしてはいけません」
「どうしてですか?」
「それはいずれ分かるかと。それより今は急ぎましょう」
「はい……」
シャイロックの意味深な言葉に迷いつつも、私は廊下の先へと進んで行った。