Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
この世界へ呼ばれたのがどちらなのかは私たちにも分からない。けれど私のせいで兄を巻き込んでしまったのだとしたら。そんな考えが頭の中を巡り、どんどん心が苦しくなっていく。
「……どうした?」
「いえ、なんでもないです」
涙を見せないようにとカインの胸元に顔を埋めると、彼は頭を撫でていた手を止めた。けれど何となく私の様子を察してくれたのか、再び頭を撫でてくれる。
(私たち……これからどうすればいいんだろう……)
「……!気をつけろ!《花かけらの波》だ!」
突如、カインの声が響いた。そっと顔を上げると私は目を疑う光景を目の当たりにする。
「夜空一面に、高波みたいな花びらの群れが……これ、避けた方がいいの……!?」
目の前で虹のように七色に輝く花びらが波のように押し寄せてる。ムルがその中に突っ込んでいき、花びらへと手を伸ばした。兄が花びらに触れると、触れた途端に花びらは砕け散っていく。
「綺麗……」
思わずそう零すと、カインがムルたちと同じ高さまで上昇して、花かけらの波の脇に寄ってくれる。
「ほら、あんたも触ってみるか?」
カインに促されてそっと手を伸ばす。指先が花びらに触れると、小さな音とともに花びらが砕け散る。その砕けた粉がまるで魔法の粉のようにきらきらと輝き、私の視線を夢中にさせる。
「あはは!ほら、触れて良かっただろ?」
ムルが嬉しそうに笑い、私と兄は視線が合うと互いに笑みを漏らした。今だけはまだ知らないことだらけでもいい。そんな風には思えるぐらいに、私の心は魔法使いたちの笑みで満たされていった。
そして波の流れに乗るように、私たちは目的地へと飛んで行くのだった。