Fleeting promise【魔法使いの約束】
第1章 壊れかけの世界
「その、賢者っていうのが何なのかは分かりませんが、何か大事な役目を背負っているのなら、きっと私じゃなくて兄の方だと思います」
「随分とはっきりした答え方ですね。何故そう思うのです?」
「根拠があるわじゃないんですけど……風が強くて、猫が騒ぐ、明るい満月の夜には、なにか不思議な事が起こるって、兄がそんな話を聞いたって言っていたので……」
自宅への帰り道、兄が言っていた言葉を思い出して、そんなことを口にする。
「それに私たちがこの世界に来たのは、乗っていたエレベーターがこの世界に繋げられたからだと思います。そしてそのエレベーターに乗るのは元々兄だけのはずでした。だけど今日、私は兄を迎えに行きたくなって……普段ならそんなことはしないんですが、その帰り道にこの世界に来たので……だからあなたたちの言う賢者は、きっと兄のことなんです」
ようやく落ち着いてきた頭の中でここまでの経緯を整理して考えたことを言葉にしていく。
「……あなたが居たのは偶然と言いたいのですね。ですが裏を返せば、あなたがお兄さんを迎えに行ったからら、という解釈も出来てしまいますね」
「あ……それは……」
言われてみればそうだ。呼ばれるはずだった兄に巻き込まれた私と考えることも出来れば、迎えに行った私が兄を巻き込んでしまったとも考えられる。
「そんなに難しい顔をしないでくれ。どちらにせよ、あんたたちが来てくれたおかげで、仲間が助かるかもしれないんだ」
「そう、ですか……」
抱きしめるカインの手が私の頭を撫でた。とても大きくて温かな手に、私の目から涙が零れる。
シャイロックの言うことは最もだ。兄に巻き込まれた可能性もあれば、その逆も有り得ない話ではないのだ。