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Fleeting promise【魔法使いの約束】

第1章 壊れかけの世界




(!今の声……)



聞いたことのある声が聞こえて、途端に目の前からドラモンドの姿が消えた。けれどどうやら消えたわけではなく、足元に一匹のネズミがちょこんと立っている。そのネズミのしっぽを摘み、窓から入り込んできた青年がにやりと笑う。

その姿を見た私と兄は思わず目を丸くする。そこに居たのは先程のエレベーターで会った青年だったからだ。



「どこに行っていたんですか、ムル」

「月にお別れをしてた!」



けれど同じというにはどこか違うようで、野良猫のようにイタズラな笑みを浮かべる彼は、私たちを見てニッコリと笑う。

そして摘んだネズミ……もといドラモンドをクックロビンへと放り投げる。



「西の魔法使い、ムルだよ!賢者様たちは飛んだことある?」

「飛……!?え……!?」

「じゃあ俺と行こう!おいで!」



ムルはそう言うと兄の手を引いてまたしても不思議な言葉を口にする。



「《エアニュー・ランブル!》」



その手に箒が現れ、彼は兄の手を引いたまま窓から飛び降りた。



「お兄ちゃん!?」


慌てて窓に駆け寄り身を乗り出すと、兄とムルが真っ逆さまに落ちていくのが見えた。



「お兄ちゃん!!」

「ご心配なく、大丈夫ですよ」



隣にやってきたシャイロックが、大声を上げた私へと優しく語りかける。



「ムル!いい加減にしろ!」



カインの叫びにムルは兄の手を引いて、自分の箒へとまたがらせた。そしてそのまま夜空へと急上昇していく。



「ほら、大丈夫だったでしょう?」

「は、はい……」



ほっと胸を撫で下ろすと、シャイロックが苦笑した。



(でも……)



安心したものの私の頭は余計に混乱しそうになってしまう。人が箒に乗って空を飛ぶ、その光景があまりにも異常過ぎたからだ。

そして窓から見える景色は私たちのマンションから見える景色とは全く違うものだったから。



(マンションどころか、東京でもない……)



本当にここは私たちの居た世界ではないのだと、現実を突きつけられたような気がした。

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