第2章 第二章 未完成な音色
その後、二人は帰って行った。
残された俺は、隣で眠る詩音の事を考えた。
「馬鹿、もっと早く頼れよ」
ずっと傷ついていたのに言わなかった。
いや、言えなかったのかもしれない。
こう見えて強情で負けず嫌いな所があるし、俺がいなくなった後はさらに悪い状況が重なったんだろうな。
千を守る為。
百君を守る為に頑張り過ぎたんだろうな。
踏ん張るのは大切だけど、一人で踏ん張り過ぎれば壊れる。
「でも、本当かな」
前髪に触れながら俺は北斗さんや緑さんに言われた言葉を思い出す。
「俺の事大好きって本当かな?」
十年前はさて置き、再会してからそっけないし。
俺の名前をちゃんと読んでくれていない気がする。
「目だってちゃんと合わせてくれない」
緑さんの店で働くと決めた時も後から言われたし。
「あー、なんか自信ない」
これじゃあダメ男じゃないか?
でも仕方ないだろ?
僻むわけじゃないけど、俺の周りにいる女の子は皆千を好きになる。
真面目に付き合った子は最期に浮気されて捨てられるか、千目当ての子もいたし。
千に対して嫉妬を抱いたことはない。
「いや、あるか」
普通に詩音を口説いている所か?
俺は千のように口説くような真似はできなかった。
嫌われたくないし。
「あー…かっこ悪い」
俺、詩音のこと好きだったんだよな。
でも、まったく意識されるどころか男としてすら認識してもらえなかった。
「二度フラれるなんて無理だ」
また好きになっちゃうなんて。
「不毛すぎるな」
千ですら相手にされなかった俺が振り向いてもらえるのか?
大体好きってどういう好きなんだろう?
兄みたいな好き?友達に好き?
「うー…」
辞めよう。
自分で言ってて虚しくなるし。
「ん?ノート?」
鞄からかすかに見えるノートには見覚えがる。
「これ…高校の時に使ったノート」
勝手に見るのは気が引けるけど、ノートを開くと。
「え…」
中には写真が入っている。
大事にカバーを付けられているのが解る。
「この写真」
写真をノートから取り出した時、一枚の楽譜と詩が落ちる。
「やばい…」
急いで拾おうとしたが手が止まった。
「え、マジ?」
鏡を見なくても解る程、俺は顔が真っ赤だったかもしれない。