第2章 第二章 未完成な音色
「八歳の頃に院長先生が亡くなり、伯父さんとしばらく暮らしていたんだ」
「そんな頃に…」
母親の様に慕う孤児院の院長先生が八歳で亡くなってから心細い思いをしていたなんて。
「小さい頃からアイツは音楽の才能が有ったんだ。まぁ、伯父さんの鬼みたいな特訓もあったけど」
「優しい顔をして鬼そのものだ」
遠い目をしながら言う二人は桜さんにかなり扱かれたようだった。
「ただ、詩音にとっては父親が自分に構ってくれる時間だったんだろうな」
「昔からアホだったね」
さりげなく本当に酷い。
ここまで言うか?
「まぁ、詩音も才能が有ったな」
「絶対音感に、共感覚の持ち主で。しかも耳が鋭くて一度聴いたら曲を再現できる」
「あー…」
確かに高校の時に代理で伴奏を頼まれた時も音源があれば弾けていた気がする。
「高校は日本で過ごして欲しいって伯父さんの願いで一時帰国したんだが…ある時から作曲を嫌がるようになったんだ」
「歌うことも辞めてしまったんだ」
俺と会った時は隠れて歌っていた。
人前では歌う事を嫌がっていたけど、何があったんだ?
「コイツの大事な曲が盗まれたんだ」
「は?」
「当時、一緒に音楽を組んでいた奴だ。そいつは曲を盗み、あろうことにも自分の曲として出したんだ」
曲を盗まれた?
そんな恥知らずな真似を!
「けれど詩音は怒らなかった。曲が欲しいなら書くよって笑っていたんだ」
「はぁ?」
「詩音は自分の曲で誰かが喜ぶならと思っていたんだが、盗んだ奴が良い気になるなって逆切れして暴言を吐いた後、親に捨てられた出来損ないだって罵倒したんだ」
詩音が優しいのにつけこんで言いたい放題、やりたい放題をして傷つけるなんて!
「そいつは、詩音が大事にしている楽譜を破り捨てた。院長先生と一緒に作った曲をな」
「最後に価値のない曲だと罵倒を浴びせられてしまって」
だから曲を作らなかったのか?
大切な思い出を踏みにじられたから?
「詩音はただ曲を作れば喜んでくれる。そんな単純な思いだったが…周りは利用した」
「曲を作るだけの為に利用したのは男女関係なくだった」
ずっと利用され続け。
裏切られ続けて、曲を書けなくなったんじゃないのか?
そんなのって…あんまりだ。