第2章 第二章 未完成な音色
❁❁❁ 北斗side ❁❁❁
詩音が行方不明になって一週間が過ぎた頃、手がかりを掴むことが出来た。
灯台下暗しとは良く言ったものだった。
音晴とは旧知の仲で業界でも親しい間柄だった。
だから確信を持てたんだ。
そして、詩音を匿ってくれている人物が彼であることに気づき安堵した。
ある意味、彼の側にいる方が安全だった。
精神的にも。
身を守るにもこれ以上の隠れ場所はない。
これまでズタズタに傷つけられて来た詩音。
もうこれ以上傷ついて欲しくない。
だから、星影に狙われていることを話した。
そして俺達とっても忌むべき奴が詩音に接触しようとしていることも話すことにした。
「九条が日本に来ている」
「え…」
「確かな情報だ。アイツは詩音をまだ狙っている。千は諦めたが…詩音を諦めたとは思えない」
万理君の表情が真っ青になる。
アイツの暴走の所為でどれだけの人が傷ついた。
どれだけの人が犠牲になった?
なのに、そんな犠牲もいとわない。
全てはゼロを超えるアイドルを育てる為だと。
悪い事ではなくむしろ素晴らしい事だと言いたげだろう。
「九条は詩音に執着心がある。だが…」
「鳥籠の中では詩音は生きられない」
星影やツクモ以上に恐ろしい男だ。
あの男を近づけさせてはならない、だからこそ俺達は隠さなくてはならない。
「万理君も気づいているんだろう?詩音の危うさを」
「はい…なんていうか」
大切な人を奪われ続け、詩音の心は傷だらけだった。
「けれど皮肉なことに、こいつの危うさが紡ぐ詩は人の心を響かせる。それはこいつがまだ音楽を愛しているからだ」
「はい」
「俺はもう一度あの頃の情熱に満ち溢れた詩音に戻って欲しい」
今の詩音は強がりに過ぎない。
「そして、自分の巣を見つけて欲しいんだ」
「渡り鳥なんて、孤独なアーティストなんて彼女に似合いわない」
誰よりも甘えん坊で泣き虫で我儘だけど優しくて強い詩音を。
人を幸せにできる音楽を紡いできたコイツの可能性を信じている。
「詩音を頼みます」
俺達では無理なんだ。
こうなった以上、口を挟めるのはあの馬鹿と万理君しかない。