第1章 第一章 消えた天才作詞家
こうして私は芸能界から姿を消した。
元より、引継ぎは済ませておいたので何も問題ないだろう。
まぁ、手紙も残しておいたけど。
「でも、後で知ったらまずいな」
「何がまずいんだい?」
「そりゃ、失踪したってバレたら…誰?」
背後から声が聞こえ振り返ると。
「やぁ、久しぶりだね」
「あー、音晴さん。お久しぶりです」
業界でちょくちょくお世話になった人。
見た目は普通のおじさんであるけど、実はすごい人。
小鳥遊芸能事務所、社長でもある。
「ご無沙汰しております」
「久しぶりだね。こんな所でどうしたんだい?」
「いえ、今日の宿を探しておりまして…野宿でもしようかと」
「え!」
普段からニコニコ笑っている音晴さんは表情が険しくなった。
「野宿って…」
「先程失業しましたので」
「失業!どうしたんだい」
有無を言わせないという目で見て来る音晴さんに私は逃げる選択しは存在しなかった。
なので、正直に包み隠さず話すことにした。
「それは…中々無茶をしたね」
「ですの先手を打ちました。私がプロデューサーを辞めたとなれば、これ以上手出しは不可です」
「だからってね…」
ついでに干されたと触れ回っておいたから大丈夫だろう。
「あるとちゃん達が悲しむんじゃないかな」
「それを言われるとキツイです」
罪悪感が無い訳じゃない。
でも、近いうちにそうなるんじゃないかって思っていた。
「あの子達のマネージャーは優秀です。それに契約期間は決まっていたので…引継ぎはしてあります」
何よりあるとの所属するアイドルグループは皆、才能がある。
だから私がいなくても大丈夫だ。
「それに私も音楽から足を洗おうかと思っていたんで、ちょうどいいです」
静かにひっそり趣味として音楽をしようかと思っていた。
音楽は好きだけど裏方に回る事を決めてだいぶ経つし、そろそろ潮時かな?って思っていたんだよね。
「詩音ちゃん…」
「やだなぁ!そんな顔しないでくださいよ!」
音晴さんが泣きそうな顔をするけど、私はこういうの慣れているし。
それに音楽から距離を置いてずいぶん経つ。
だからこれでいいんじゃないかな?